夏の思い出−ミニドラちゃん現る

さて、年内の思い出回想ウィークだよ!
丹波に移って間もない頃、2ヶ月待ちで予約をしていたヴィパッサナー瞑想から帰ってきた頃の話です。あの後すぐ自宅の古民家シェアハウス(という名の動物園)に戻ると、良く知らない人からこのような要請があった。


「今そっちに向かってるんで」

ほとんど面識のないその人は、私にこんなメッセージを送ったあとで、「『その子』を駅に迎えに行って、お宅に泊めてやって」と言うではないか。ていうかあんた誰やねん、一体。

突っ込みどころがありすぎで全然追いつかないが、ここんちではこういうことがまあまあ良く起こる、ということは後に知ることになる。
私もそもそもこういう予想外の出来事は面白がるタチなのでこの要請を快諾し、駅まで『その子』を迎えにいくことにした。すると、駅前にはそれらしき女の子がひとり。黒づくめのその子は、恐る恐るこちらに視線を送っていた。

私が「君を迎えにきたよ!」という意味で手を振ると、無感情な笑顔で近づいてきて「こんばんわ」と挨拶する家出少女。明らかにアレだ、ATフィールド全開な感じだ。「誰の目にもとまらないように透明人間でいたいです」という態度だが、「もっと私を見て!(どうせ分かってくれないと思うけど)」な弐号機ちゃん的我の強さを節々に感じる。何があったか知らないが、なかなかにこじらせておられる様子である。
しかしながら、それでもこんな夜に家を飛び出し、知らない女の車に乗り込もうなんてなかなかの度胸で、なかなかのドラマちゃんではないか。見込みある(ニヤリ)。
私はこの時、こっそり彼女をミニドラちゃんと名付けることにしたのでした。

というわけでミニドラちゃん、とりあえずは他人に心開く状態ではなさそうなので、彼女への興味は一旦おいといて、まずは家に着くまでの道中、元メンヘラおばさんで今はハッピーニートな私の人生をダイジェスト版でお届けしておいた。

とりあえず露出狂的に腹見せていくスタイルでやってます

負のドラマがひどい

おうちに着いてから少しずつ彼女の話が聞けるようになったのだが、聞けば聞くほど、育った環境やら学校環境やら職場環境やら、ことごとくに非常にアンラッキーで、アンラッキーすぎて「自らハズレをひく呪い」にハマっちゃっているような、ミニドラちゃんはそんな気の毒な状況に生きていた。負のドラマがひどくてこっちが泣きたくなってくる。
ただ優しくあろうとするだけの、ただの無防備な人の善意を、吸い取れるだけ吸い付くそうとする人間というのは残念だけど一定数いて、そういうのに限って善意への嗅覚が鋭かったりして、本当にタチがわるいなあと思う。ミニドラちゃんの太っ腹ともいえる吸い取られっぷりを聞いていると、理不尽への憤りを感じてしまうのだれど、それでも家を飛び出してこんな謎のシェアハウスまでやってきて、謎の無職の女に少しだけど自分の話をしようとしている彼女の勇気が健気で、なんとかしてやりたいと思っちゃった。

まあ、別に何もできることはないのだけれども、元メンヘラおばさんとしては、「ハッピーニート☆」なんつって、結構本気で幸福度高めにヘラヘラ生きている30代の未来もあり得る、という事くらいは示しておきたいなと思っておりまして、そのために必要なんなら、私にだってこう見えて、自傷も過食も拒食もテンプレ通りにやったガラスの10代があったことくらい、もう打ち明けることだってできるんだよ☆

ガラスの10代、じ、実はなぜかどうしようもなく病んでいたよ。でも、じ、実は……病んでる自分がちょっとくらい、イケてるって思ってた…かな……かも。おおおおお……..テンプレすぎて恥ずかしくて死ねる………orz

隙あらば小さな鋭利な物を手にしてたかったティーンのドラマちゃん☆


溢れるラブ、そして母乳

さて、初めはお面みたいな顔でその時その時をなんとかそれっぽくやり過ごしていたミニドラちゃんだったが、一緒に温泉にいったりご飯を作ったりしている内に、どんどん無邪気さを取り戻してくれるようになった。なんだこれ、どんどん可愛くなってくるぞこの子。もう、うちの妹にしたいよ!

そんな数日の滞在中のこと、一緒に楽しんでいたら、彼女のお面がうっかりポロりんとはがれ落ちる瞬間に出会う事ができてしまった。

家出娘に非常識とか言われています

脳みそがカニミソみたくドロドロになりそうな真夏日、私がナチュラルに外で水浴びをしていると、心配そうにこちらを見るミニドラちゃん。どんな大人やねん、と言いたげな彼女に、ドラマお姉ちゃんは水浴びの素晴らしさを教えてあげることにしたのでした。

まだ非常識がどうとか言っています

たったこれだけの、なんてことはない「暑いから水を浴びる」というだけのことだったのだけど、明らかに彼女の何かが解放されたような、この時は無防備さが増していた。そう、パンツがびしょ濡れになると、人は何かをあきらめ開き直るのではないでしょうか。
そして、こんなことで大はしゃぎしている自分の様子にひとしきり驚いた後で、当の妹ちゃんは、私にこのように感動を伝えてくれるではないか。

一気にちぢまりすぎな距離感 (°∀°)

庭で水浴びするくらいの事で大袈裟だなぁと思わなくもないのだが、きっと、彼女には大袈裟でなく、ほんとうに衝撃だったのだと思う。あれもこれもやっちゃダメ、こうしないとおかしいよって、他人の呪いに振り回されて「じゃあ、何が正解なんすか?」って、動けなくなっちゃった事がその昔私にもあってね、お面事情には私もそれなりに詳しいつもりなんだよ。
早くツラの皮を厚くして、おばちゃんの世界へいらっしゃいと言ってあげるくらいしかできないけど、なんにせよこの時は嬉しかった。

その昔、私がどうしてあんなに自分も世界も呪って生きていたのか、今となっては本当に良く思い出せないのだけど(どういうことだよ本当に)、勝手に見えない糸に引っかかって、自分で絡まりにいって、そのまま真っ暗な穴の中にダイブする、という謎の恐怖プレイに勤しむようなことをいつもしていた。いそいそと。

ほとんど地獄の遊び方

今思うと本当にバカみたいなのだが、その時は多分、それしかやり方を知らなかったんじゃないかなーという気がするし、やることなすこと不正解ながら必死だったような気もする。その後こじらせながらも色んな人に助けてもらって、そんな私が今、彼女みたいな子を抱きしめるチャンスをもらえているなんてさ、人生ってなんちゅーギフトだよ、本当に。と、涙と母乳が漏れそうになっちゃった。

漏れている


ミニドラちゃんのドラマは私のなんかよりも壮絶だけど、今はまだ欠けているミラクルが、これからの彼女にどんどん増えていきますように。そのためにやはり彼女にはこの家のオフィシャル妹として丹波に通っていいただいて、私が定期的にバカになる方法を伝授していきたい。呪いじゃなくて、祈りを贈ろうね。

なんつって、ラブを与えているようで、いつももらっている。
旅中ヒッピーみたいな人たちとばかり暮らしていたら、元メンヘラおばさんはちょっとヤバめにラブ多めなドラマちゃんになっちゃった。なかなか上出来な更生っぷりだと思いますが、本当のことを言うと母乳はまだ出ません。

ああ、移住生活、ドラマな夏の始まりだったなあ。

宮城県生まれ南仏育ちのイラストレーター|デザイナー

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